ここまでだとは思わなかった、と言えば、トレーナーである彼女を舐めていたと思われるだろうか。
何であれ、そこそこレベルの高い(と自負出来るほどは強いと思う)自分たちは彼女に惹かれて今此処にいるのだし、頭だって悪くない。
彼女が今までどうしてバトルを避けてきたのかは良く分からないが、こんなことならばもっと早くに言えばよかったのだ。
宝の持ち腐れ、とでもいうのか。
「おひーさん、何で今まで隠してたわけよ」
思うことは、ただただもったいない。



隠された才



「・・・へ?何が?」
「何がじゃないって!!ここまで息ぴったしになれた人間見たことない!おひーさん凄い!!てか、ヒカルさんもしかして知ってた!?」
は決してとぼけてはいない。
バトルにおいて、トレーナーの指示は重要だ。それがレベルの高いポケモン同士であればあるほど。
ユカリは、そこそこ長く生きている。多くの人間を見てきたし、彼女ではない、他の人間のポケモンであったときもあった。
まだがトレーナー駆け出しでそんなに多くのバトルをこなしていないのは知っている。
しかし、それでも、彼女のセンスは。
そして、は、自分がこれほどまでにユカリを興奮させている理由だと気付いていない。
「知っていた、というか、俺一人だった頃はいろんな奴のバトルの標的になってたからな」
ポケモンを一匹しか連れて歩いていなかったは、所謂良いカモだ。
しかし、そんなことをするのも初心者トレーナーだけなのでその時にの基本的なバトルの仕方の練習相手にはなった。
利用される前に利用してしまえ。
当時ヒカルが良く言っていたことだ。
「私、息が合うのユカリ君だからだと思うよ?」
は、こてんと首をかしげながら言った。
「皆だから、ユカリ君だから、何が好きかとか、どう行動したいのかとかが何となくだけどわかるし、信じられる」
「嬉しいけどねぇ」
それこそが、才能だ。
ポケモンとの同調。信頼関係の最終形態。
経験豊富なトレーナーは、自分に頼りすぎてしまうこともあるし、初心者は論外。
簡単に出来るものでもないのだ。相手に身を任せることは。
「そんだけ信頼されてるってことか。俺もおひーさんのために負けるつもりはないけどね」
ユカリは、低い位置にあるの頭を撫でながら、目を細めた。
この少女の無条件の信頼に、応えてみせる自身はある。
「コレ言いたくないしヨル拗ねさせるのも嫌なんだけど、まだ新入りの方の俺でこんだけシンクロできんでしょ?ヒカルさんとかどうなの?」
言ったとたん、“新入り”という単語に案の定いじけるヨルに苦笑する。
出会うのが遅かったことは、どうにもならないことだとは思うが、しかしそういう問題でもないのだ。
自分だって出会いたかった。もっと早く、彼女と。
「一番バトルの経験あるのが、ヒカル君とルナ君だと思う」
「ツユは?」
「何度かは。といっても最低限ですけど。いつもルナに出番を取られるので」
ツユの首を振って呆れ気味に笑う視線を受け取ったルナは即座に言い返した。
「あ?てめぇバトル好きじゃねぇって言ったじゃねぇか」
「そうでしたっけ」
「てめ・・・」
ルナとツユの相性は悪いようでいい。
ルナが遠慮なく鋭い視線を送るのはツユにだけだし、ツユが珍しくからかうような口調になるのはルナに対してだけだ。
「てかさ、姫。姫は、バッジ取りとか興味ないの?」
「ジム戦ってことだよね?ないかなぁ」
あっさりと言ってのけたに、ヨルは軽く目を見開いた。
「姫ってブリーダー志望・・・でもないよな。コンテスト・・・も、俺らん中で向いてる奴いねぇし」
コンテスト、と聞いて、笑顔を振りまき自分をより美しく見せようと奮闘する彼らを想像し、は吹き出すのを何とか堪えた。
何というか、似合わなさすぎる。
(駄目だ、・・・笑顔のルナ君ってどんなのよ)
「・・・マスター?」
頭を膝に埋め、肩を振るわせるに、ツユは不審気に声を掛ける。
だが、返事をする余裕などにはない。今顔を上げ皆を見れば確実に吹き出す。
それは避けたい。絶対に何人かの機嫌は悪くなる。
「・・・あぁ、そういうことですか」
別に、気分が悪いとか泣いているとかではないから。(別の意味で涙は出そうだが)
それを伝えるために少しあげた右手で、ツユには伝わったらしかった。
助かる。放置してくれたツユには感謝だ。
「どしたの?」
「コンテストに出て笑顔で技連発するルナを想像したらしいですよ」
「ぷっ」
「おい
ツユ君・・・、なんてことを。
実際に言葉にされるとどうしようもない。
そのまま笑いが止まらなくなってしまったをルナは睨んだ。
お世辞にも良いとはいえない目つきでこちらを見るルナを顔は怖いとしか形容できない。
しかし今のにはとんでもない逆効果だ。
「あははっ・・・、駄目だルナ君、見ないで!!」
なんて自分勝手な要求だろうとは思うが、これ以上ルナ機嫌を急降下させないためにお互いにとってそれが最善だと思う。
「おっ、落ち着くまで待って!!後でいくらでも怒られるからっ!ねっ?」
「キラキラしたルナ・・・ぷ」
「歯ぁ食い縛れやユカリ」
「え?何で俺だけ!!」
「マスター殴れるわけないでしょうが・・・」
余計なことをしたものだ。ツユはユカリを呆のこもった目で見やる。
ルナは以外に遠慮はない。きっと渾身の力で殴られるだろう。
「はぁ・・・、もうツユ君酷いよ・・・」
お腹痛い・・・。やばい、横隔膜が攣りそうだった。限界まで笑うとはこのことだ。
?」
「はい笑ってすみませんでしたルナ君」
ようやく落ち着いたを、冷ややかな声が襲う。
恐ろしいが、自業自得だ。だって、横目で助けを求めても誰も目線を合わせてくれない。
「お前は・・・」
ぐりぐりと、乱暴に頭を押される。は反射で首を竦めたが、ルナのそれは少々強く頭を撫でているだけだった。
「ごめんなさい、ルナ君」
もう一度従順に謝ると、溜息を一つこぼしその手は離れた。
本気で怒っているわけではない。未だかつて、に対して彼が本気で怒ったことはない。
「でもマスター。マスターが本当にコンテストに出場したいなら、たぶんやりますよ皆」
ツユが言った言葉に何人かが即座に頷いたのを見て、はぽかんと口を開けた。
気付き慌てて取り繕う。
「え?」
「大体いいとこいくと思いますけどねぇ、僕達」
「き、気持ちは嬉しいけど、出る気はない・・・かな」
興味はあることにはあるが、本気にはならない。
それでは、真面目にそれのために日々取り組んでいる人々に失礼だ。だから出ない。
「了解です。まぁ、言ってみただけなんですけど」
否のの返答に、割と本気で安堵の溜息をはいたルナを眺め忍び笑いつつ、ツユは思う。
けれど、もし彼女が出るといっても、ルナはきっと付いていくだろう。
彼女の他のポケモン、自分達を信用はしているけれど、でも彼女を任せきるつもりはないのだ。
「おひーさん、俺たまにはおひーさんとバトルしたいんだけどさ」
「ユカリ君?」
「でも、おひーさんがどうしても嫌ならもう言わない」
優しすぎる彼女は、もしかしたら傷つけることが嫌いなのかもしれない。
ならば、彼女が嫌がることはしたくない。
「私でいいの?」
「てか、おひーさんがいいの。おひーさんじゃなきゃ嫌だ」
いまさらなことを聞くものだ。ユカリは軽く笑った。
「バトル、嫌いじゃないよ?あんまりそればっかりは出来ないけど、それでも良いなら」
「ほんとに?」
「うん。やっぱり、私だって勝つときは嬉しいよ」
は綺麗に微笑んだ。勝つのは気持ちがいい。達成感、充実感、何より、ポケモンと一体になれたようなそんな気持ち。
「好きだよ」
「よっしゃありがとおひーさん!大好き!!」
「あっ、ずりいユカリ!姫!俺とも!!俺ともな!!」
「うん、ヨル君も」
ユカリとヨルの二人に構い倒されているを見て、残りの三人は色々な思考が混ざった溜息を重くはいた。
「非好戦的なによくもまぁこんな好戦的な奴ばっかり集まったよな」
「まったくですね、ヒカル。ジム戦でもいい成績残せるって僕本気で思ってたりするんですけどどう思いますルナ」
「いけるんじゃねぇの。が本気になりさえすれば」
何が凄いと言えばこんな奴らを何だかんだ言いながら彼女はきちんと纏めていることだ。
レベルは高いが扱いきれず舐められ言うことを聞かないポケモンを持つトレーナーも多い中のほほんとしたが5人を引き連れていることは他のトレーナーにも驚かれていたりする。

「おい、ジムがあるところって近くは何処だ?」
「確か次の街にありますよ。行きます?」
「決定だな。、次の行き先決まったぞ」

おそらく自分達が彼女といて心地よいと感じるその理由は。
何処ですか?と疑いなく反論なくもうそこへ向かう気でいるの人間らしくない素直さと。
「おひーさん最高!大好き!!」
「ありがとう私もですよー」
「僕らも大概にマスターのこと好きですよね」
「この期に及んでだな」
どれだけ装っても隠せない、を好きだと思う気持ちなのだということは、気付くまでもなく以外の者には自明である。