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かすかに震えるボールの中で、警戒するように見上げてきた視線に捕らわれた。 知っていたよ、選ばれたのは私だったね。 「そうだ、ちゃんに行ってもらえば良いんだ!!」 思いついた僕天才、とかなんとか言いだしそうな雰囲気を醸し出しつつ、人差し指をピンと立てて両案を生み出したというジェスチャーをした馴染みの 博士に、は大丈夫かこの人と彼の頭を本気で心配した。大丈夫……、いったい何が。この町から、いやいっそ村といっても良い小さな故郷から 滅多に外出しない自分に何を言い出すのか。 「や、あの、博士」 「心配しないで。研究所のポケモンを一体あげよう。君のことは小さい頃から良く知っているから、ちゃんになら安心して任せられる。さあ、こっちこっち、 選んでおくれ」 母親から、研究所の博士からお呼びがかかっていると聞いた時は、また人手が足りないのか、詳しくは知らないがそれなりに名の通ったポケモン知識者 らしいのだから一人と言わず二人でも三人でもさっさと雇えばいいのにと嘆息しながら腰を上げたのだったが、こんなことになるなら忙しいとでも 嘯いて断ればよかった。なんだっていつも、彼の研究の雑用を手伝っていたのか。 「ちゃん?聞こえてるー?」 「聞いてますけど、あのですね。わたし、トレーナーになるつもりなんてな……」 博士に連れられ数歩歩いたその先、三つのモンスターボールが見えた。赤、青、緑のポケモン達だ。その一つに目を奪われる。 トレーナーになることは、楽観的になれるほど簡単なことではないのだ。まずはそもそも、ポケモンを扱うには試験を受けなければならない。十になれば 特別な資格は要らずだれでも無料で受けることができ、この入門試験自体はまあ九割九分の人が合格する。半日講義を受け(ボールの使用方法やポケモンの 基本的な生態など多岐に渡る)、そのままの内容がテストされるからだ。問題はその後であって年一回実施されるトレーナー試験やら、ジム戦、旅に出る のであるなら給付金の支給額検査等々、正直果てしなく面倒くさい。 は、トレーナーになるつもりなど皆無だった。資格を持たずとも手持ちのポケモンがいないだけであって彼らと交流が禁じられているわけではないし、 何の不都合もなかったからだ。今、この瞬間まで。 「どの子が良い?……って、決まったみたいだね」 そんなウツギ博士の声も、聞こえていたか怪しい。何かに操られたようにはモンスターボールに手を伸ばした。カチリと、スイッチを押す。 「チコリータ。はっぱポケモン、見ての通りくさタイプで……、そんなことどうでも良いかな、君には」 聞こえてないみたいだし、と拗ねたように呟かれた博士の声は、確かにには届いていなかった。そんなことより、君をもっと。 片膝をついてそっと手を伸ばす。ポケモンというのは存外警戒心が強いということを知っていたから、振り払われるかもしれないと頭の片隅でかすかに 考えたが、それよりもっと、もっとその瞳を見たいとの欲求が勝った。そっと、壊さないように慎重に頭の葉っぱのような部位を撫でた。目が合って、 貫かれる、その衝撃。 「はじめまして、わたしは」 ぱちぱち、と目蓋を瞬かせるしぐさに頬笑みを誘われる。わからないけれど、モンスターボールの中にいる彼らの状態は眠っているようなものなのだろうか。 だとしたら寝起き一番でこんな話を聞かされる彼は気の毒としか言いようがないけれどもう止まらない。 「わたし、君に一目惚れしたみたいなんだけど、どうしよう?」 ポンッ、という軽い爆発音と共に突如姿を現した頬を真っ赤にした少年――ああ、やっぱり宝石の様な――に握手を求める。 「よければ、わたしのパートナーになってくれないかな?」 本当に現金な奴だ。だけど、この宝石を見れば誰だって。 もうの心の中からは数瞬前までは確かに存在した不平、不満、その他煩雑な感情はきれいさっぱり消滅していた。 |